Archive for 1月, 2011

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江戸の崖 東京の崖 その27

三軒茶屋の三差路から、世田谷道を500mほど西へくだって、その一本南側の裏道。
そのあたりが、「忍法帖」や「戦中派不戦日記」で名高い作家の山田風太郎が、戦後、昭和32年頃まで住んでいた旧宅跡。
旧住所は世田谷区三軒茶屋町196番地。
三軒茶屋から世田谷通り(旧大山街道)と大山道(玉川通り、国道246)に分れるけれど、世田谷通りは北側の烏山川と南の蛇崩川の間の尾根道。
玉川通りももちろん尾根道。
この2本の尾根道の間を、蛇崩川(じゃくずれがわ)が中目黒まで下って目黒川に注ぐ。
行ってみて、風太郎先生、世田谷道の尾根から南にやや傾斜した、蛇崩の谷側に住んでいたことが判明。
このあたりは小さな崖がちょろちょろつづく。
蛇崩川はその程度だが、北側の烏山川(からすやまがわ)はもうすこし規模が大きい。
国士舘大学の北校舎と南校舎の間を抜ける緑道は、南に7mほどの崖が佇立してつづく。
その崖の途切れるあたり、松陰神社の参道脇の桂太郎の墓はしかし、なんとも恥かしい。
吉田の塾生でもなかった者が、その威を借りるタロギツネ、というかコバンザメタロウの構図を遺憾なく表わす。
なにせ「ニコポン」タロウは冤罪というよりも国家の犯罪「大逆事件」のフレームアップと「韓国併合」の総責任者。
こういう阿世者の「得意がり」を、「日本の歴史」は何時まで許しておくのだろう。

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江戸の崖 東京の崖 その26

今年の1月24日は、幸徳秋水ほか11名刑死100年忌。
いわゆる大逆事件100年にあたります。
永井荷風父永井久一郎旧邸跡近く、旧市ヶ谷刑務所処刑場跡は、新宿区の余丁町児童遊園の一隅に、日本弁護士連合会の「刑死者慰霊塔」が建てられていて、たずね来る人にはわかる状態。
都内ではもう一箇所「故地」が残されていて、渋谷区代々木三丁目の正春寺墓地中央辺の白っぽい自然石が翌25日に処刑された管野スガの墓。
スガの墓については、田山花袋が『東京の三十年』で曖昧に触れている。つまりはっきりと個人名や事件名を書くことは、当時憚(はばか)られた。

昨今そこここの神社などをめぐって、若い人の間に「パワースポット」ブームが出現しているわけですが、大逆賊「将門首塚」が大手町にある江戸東京最大のパワースポットなら、こういう場所も「近代パワースポット」。なにせ菅野スガは現代の劇作家によって「魔女」扱いされている(福田善之『魔女伝説』三一書房, 1969 )のだから、十分に「パワー源」となる資格がある。

 [凡そ「神社」は怨魄を封ぜんがため建立され、その「パワー」は恨みを淵源とす。
 [よって、人もし「パワー」を後代に残さんと欲せば、死に臨んで存分に恨み念ずべし。

つまり、そこには一種の「時間の特異点」が露出している。
そうしてまた、崖が屹立しており、ビュービューと風が吹きつのる。
非命に斃れた異貌が顕現する。

『時の崖』というのは、安部公房が書いた拳闘小説のカウントダウン・ゴングにだけ出現するわけではない。
先の「ブラタモリ」や「新東京地形論」も、時間に伏在する非連続性という「崖」に無知な例でしょう。

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江戸の崖 東京の崖 その25

[御所組一家、崖組一家]
ウサギ年だというので、「辛卯」(かのとう)という文字が入った賀状が来るけれども、元来「卯」という文字はウサギとは何らかかわりがない。
もともとは左右対称をあらわす字形。十二支の第四位に用い、わかりやすいように動物をあててウサギとしただけの話。
十二支採用は、ウサギには関心を持ってもらえる分、有難半分迷惑半分でしょう。
さて、昔話ではカタキどうしのウサギとタヌキ。
東京の都市部では絶滅したとみられるニホンノウサギですが、敵役のほうはしっかり生き残っている。
今朝の東京新聞によると(「東京生き物語2011下」)、23区内で約1000匹のタヌキが棲息する由。
「東京タヌキ探検隊」の2007-09年調査では、目撃件数の多い順に、練馬区77、板橋区64、杉並区62、中野区39、文京区28、世田谷区28、新宿区26、北区18、豊島区17、千代田区10、足立区10、渋谷区9、港区4、目黒区3、大田区3、台東区2、葛飾区2、江東区1、品川区1、中央区0、墨田区0となる。
このうち、千代田区の10は明らかに皇居にお棲まいの「御所タヌキ」。
渋谷、新宿の数字も、新宿御苑、明治神宮、赤坂御所においでのご縁戚でしょう。
古い巣穴のあった、麻布の狸穴(まみあな)は港区ですが、狸穴のタヌキと崖については、本連載「その18」で述べた通りですので省略するとして、皇居とその関連施設以外のタヌキの居住場所はほとんどが急傾斜地、つまりは崖地なのです。
一定の面積をもった緑地は、皇居や神宮のように人間社会における強力な規制によって保全される以外は、人間の経済活動のおよびにくい急傾斜地にかろうじて保たれています。
グリム童話には決して出てこない、ユーラシア東部に棲息するネコ目イヌ科タヌキ属(ウサギはウサギ目ウサギ科)の、日本列島は東京在住グループにも、御所組一家と崖組一家という派閥が存在するのです。