Archive for 7月, 2013

標記の拙著の見本が送られてきた。

本体価格は1900円ではなくて、1800円だった。
税込で1890円になる。
刊行日は本には8月31日と記載しているが、8月早々主要書店に並ぶと思われる。

自分で言うのもおかしいが、カラー地図のボリュームと解説の密度が半端ではなく、この値段では大変「お買い得」と思う。
帯付カバージャケットの写真と、「はじめに」と「目次」をとりあえず以下に掲げておく。

img502.jpg

◆はじめに

必要もなしに地図を見るのは楽しい。
R・L・スティーヴンスンの「宝島」は、妻の連れ子が描いていたいたずらがきのような地図に、自分が手をくわえるうちにインスピレーションが湧いてきたのだと、作者は物語の発端を解き明かしていますが、地図はたしかにイメージを、そして物語を誘い、立上らせる力をもっています。
その物語においては、地図は宝の在り処を指し示す暗号のような記録物でしたが、現代ともなると、地図そのものが宝に転じる場合があります。とりわけ、その地図が古いもので、美しく、しかも地域のディティールまで描きこんでいたとすれば、それは宝飾品以上の価値をもつと言わなければなりません。
地図が、そして古地図がブームであると言われるようになったのは今から三十年以上前からのことですが、振幅の違いはあるもののその波はずっと続いてきたようです。
しかしその古地図ブームの中身は、二〇一一年三月一一日を転機に大きく変容したのです。それまで、骨董趣味にも似た秘かな楽しみの対象であった古地図類は、津波や液状化の可能性をチェックする記録物として世間の耳目を集め、あるいは重要視されるようになったからです。
ここにお目にかける古地図ないし旧版地形図類は、見ることそれ自体が楽しみでもある華麗詳細図で、「本物」であることを基本としていますが、それだけではなく、私たちが日々の生を託す「地面」そのものの素顔にアプローチできるものを選んだつもりです。
だから、この本を手に取って必要もなしにページをめくり、視線のランブリングをたのしみながら、しかしそこに何らかの「気づき」を得、さらにすすんで一種の警告を読みとっていただくことができたら、この本の筆者としては以て瞑すべしとするのです。
筆者は昨今流行の景観論やトリビアめいた地形談義に与(くみ)するものではありません。しかし、そうした話の「ネタ」も、また、地名、鉄道等々に関する話題も、この本にはぎっしりつまっているでしょう。筆者がつけくわえた文章も、地図をみるヒントの一部にすぎません。
しかしながら江戸時代二百六十年、東京時代百四十年、日本列島最大平野部の「物語」はなお進行中であって、喜劇におわるか悲劇に転じるか、いずれにしてもわたしたちはそのただなかにいることを忘れてはいけないでしょう。
そうして、そこに読みとるものが何であるかによって、地図は宝石にも、媚薬にも、劇薬にも、そして紙屑にもなるのです。

◆目次

はじめに

一、水道橋(寛永19年《1642》頃/明治16年《1883》頃)
   吉祥寺と水道橋の謎
   水道懸樋以前
   懸樋移転の謎
二、丸の内・日比谷(慶長7年《16o2》頃/明暦3年T657》頃/明治42年《1909》頃/平成14年《2002》頃)
   海に洗われた江戸城
   「僧正殿」と日比谷
   逆転した「ハ重洲」の謎
   「八重洲」の起源と転位の謎
三、神保町(寛永19年T642》頃/平成14年《2002》頃/卒水3年《1850》頃/廷宝年間の図/明治20年《1887》)          
   「小川町」の謎                      
   二本の小川                      
   小川町最深央部                    
四、銀座(寛永19年《1642》頃/安政6年《1859》頃/大正10年《1921》頃/平成14年《2002》頃)                  
   「西銀座駅」はどこへ?                 
   消えていた「銀座」                   
   「下町」の変容                    
   銀座半島
五、人形町・元吉原(寛永19年《1642》頃/明暦3年《1657》頃/安政6年《1859》頃/平成14年《2002》頃)   
   葦・蘆・葭                
   元吉原                           
   水路と河岸                      
   町と人と地形と
六、西片・白山・小石川(寛永19年T642》頃/明暦3年《1657》頃/安政6年《1859》頃/平成14年《2002》頃) 
   指ケ谷町はどこに
   台地と坂
   小石川谷と下水
   丸山福山町と菊坂の谷
七、赤坂(寛永19年《1642》頃/明暦3年《1657》頃/安政6年《1859》頃/平成14年《2002》頃)                 

   どこでも赤坂
   成り上がり赤坂
   古街道と水の風景
八、麻布(寛永19年《1642》頃/明暦3年《1657》頃/明治16年《1883》頃/平成14年《2006》頃)
   坂・橋・水流
   姫下坂と牛啼坂
   谷と坂の変容
九、六本木・元麻布(寛永19年《1642》頃/明暦3年《1657》頃/安政6年1859》頃/平成14年《2002》頃)    
   麻布の善福寺                     
   台地の一本松                     
   黄金餅の坂                      
   ヒルズとタウン
十、芝・三田(寛永19年《1642》頃/明暦3年《1657》哨/安政6年《1859》頃/平成14年《2002》頃)
   熱機関以前
   海の寄り幸
   記号の波長差
十一、上野(寛永19年《1642》頃/明暦3年《1657》頃安政6年《1859》頃/平成14年《2002》頃)
    山檄魚の頭
    「ニッポリ」の謎
    動物園の五重塔
    大僧正町
    「松平肥前守」の謎
    偉大なる崖の消えた坂
十二、日本橋(寛永19年《1642》頃/明暦3年T657》頃/安政6年《1859》頃/平成14年《2002》頃)
    「橋」より先にあったもの
    日本橋川「へ」の字曲りの出現
    浮世小路
    入堀の夢跡
十三、八丁堀(寛永19年T642》頃/明暦3年《1657》頃/安政6年T859》頃/平成14年《2002》頃)
    運河開削の謎
    江戸湊
    初期の海岸線
    江戸前島を横断していた入堀
十四、深川(寛永19年《1642》頃/明暦3年《1657》頃/大正10年《1921》頃/平成14年《2002》頃)
    江東のタテとヨコ
    母なる運河
    謎と誤認
十五、浅草・新吉原(寛永19年(1642》頃/明暦3年T657》頃/大正10年《1921》頃/平成14年(2002》頃)
    「三社様」のはじまり
    日本堤と柳原土手と
    「付け根」の謎
    田んぼの中の不夜城
    富士と馬場の謎
十六、新宿(寛永19年《1642》頃/明暦3年《1657》頃/安政6年《1859》頃/平成14年《2002》頃)
    谷と分水嶺
    中野の塔
    「新宿」以前
    玉川上水と新宿湖
十七、早稲田・高田馬場(寛永19年《1642》頃/明暦3年T657》頃/安政6年《1859》頃/平成14年《2002》頃)
    馬場と御殿
    台地の大学・低地の大学
    低地・台地・台地の凹部
    文豪のいた場所
    水のなかで
十八、御茶ノ水・湯島(寛永19年《1642)頃/明暦3年T657》頃/平成14年《2002》頃/明治16年(1883》)
    神田明神と湯島天神
    御茶ノ水・湯島・本郷
    古石神井川谷と実盛坂
    岬地形と切通し
十九、目黒(明暦3年《1657》頃/安政6年T859》頃/大正10年《1921》頃/平成14年《2002》頃)
    目黒のさんま
    「目黒の崖」の謎
    目黒と品川
    非対称谷
二十、渋谷(寛永19年《1642》頃/明暦3年《1657》頃/安政6年《1859》頃/平成14年《2002》頃)
    渋谷村のアイキャッチ
    消えたV字谷
    鎌倉道
    中世城館のロケーション
二十一、雑司ヶ谷・池袋・板橋(寛永19年《1642》頃/安政6年《1859》頃/明治13年《1880》頃/平成14年《2002》頃)
     一里塚の谷地の謎
     知られざる谷
     根津山とメビウスの輪
     池袋村近在の謎
二十二、千鳥ケ淵・番町(寛永19年T642》頃/明暦3年T657》/明治16年《1883》頃/平成14年《2002》頃)
     怪談「五番町の帯坂」
     番町・町屋・城下絵図
     破れ堀と幽霊谷

江戸図とその謎 ―解説にかえて
  現代の古地図
  古地図と「同時代」
  最古の江戸図
  手描き図と版行図
  江戸の地形図
  江戸図描図の三段階
  もうひとつの手描き図
  谷戸田都市
  版行絵図と江戸図の記号
  江戸図最大の謎

あとがき

考文献抄
 《江戸図》
 〈複製地図》
 《古地図一般》
 《江戸東京地誌地形関係》

使用地図一覧

                

                    

                       

collegio

散歩の達人 8月号

標記の雑誌(No.209)は「リニューアル第1断! 大特集/夏の東京さんぽ術100」を表紙に謳っていて、そのうちの1ページだが、依頼があって書いた。

とくに夏だからではないけれど、やはり「水辺」は忘れがたく、櫓漕ぎ舟上の世界に焦点をあてたものにした。
しかも、中身は「崖話」。

すなわち、武蔵(東京)の「日暮里崖線」に対峙する、下総(千葉)の「国府台崖線」という、直径十数キロから100キロメートルにわたる巨大「スリバチ」の話。

「地形」をトリビア話にして喜んでいるのは程度が低い。
われわれの「足下」は、これくらいのスケールで考えないと、意味がないのだ。

img500.jpg

collegio

5刷と新刊

例の「崖本」が「5刷になります」と編集者から連絡があったのは先月の半ばころか。
本日、その5刷本が送られてきた。

269289-1.png

初刷りが去年の8月30日だから、1年たらずだけれど、まあこれでようやく書物としては「一人前」かな、と思う。
あちこちの書店では、まだ平積みになっているし。

その平積みの横に、また拙著が並ぶことになる。
二見書房から、この8月1日に出るのは『古地図で読み解く 江戸東京地形の謎』というタイトル。
これもカラー地図をふんだんにつかった、A5判240ページほどの本。

51iz6zpjnol__sl500_aa300_.jpg

少し厚い分、本体価格は1900円だけれど、アマゾンはすでに書影(本の写真)付で予約販売を受け付けている。
通常配送無料で1890円というから、アマゾンで買うほうが安いことになる。
どういう仕組みになっているのか、自分も出版界にいながら、からくりがよくわからない。

初刷り部数も、版元としてはだいぶ頑張ってくれているようだし、これも版を重ねてくれればありがたいと思っている。

書影は、帯をとってしまっているけれど、デザインは帯と一体でおこなっているし、いずれ手元に本がくれば、帯付の写真を再掲する。