Archive for 6月, 2012

collegio

竪の坂 横の坂

渋谷川と目黒川の間の代官山近くの高台は、渋谷川からはなだらかに高くなって行くが、目黒川からは険しい急坂になっている。西郷山の坂、牛啼坂(世田ヶ谷、荏原、目黒から野菜や米を積んだ車を曳いてきた牛が登れなくなって啼く坂)、今も階段で車の通れない別所坂、目黒のさんまで有名な爺ヶ茶屋のあった茶屋坂、千代ヶ崎の坂、五百羅漢の寺のある行人坂など急坂が多い。それだけに、この丘陵から見る西の眺めは広々として遠くまで続きその先に富士が美しくそびえていて、北斎や広重の版画を思わせる。その得難い風景は戦後の高層ビルブームのため無残にも分断、破壊され、武蔵野の高台から富士を眺めることは殆んど不可能になってしまった。富士どころか目黒川沿いの低地もその向側の世田ヶ谷の丘を望めない。

冒頭の文章は、文芸評論家として知られた奥野健男氏(1926-1997)のものですが(『ヒルサイドテラス白書』栞、1995)、ご本人は、ある日同窓会名簿をながめていて、47人いる小学校同級生のなかで、なお生家に寓しているのは自分ただ一人であることに気付き、愕然としたといいます(『文学における原風景』1972)。
たしかに、関東大震災や東京大空襲の破壊を経て、東京オリンピックの都市改造、さらにバブル経済地価暴騰以降の再開発という、都市改変の4つの巨大な波をかいくぐって東京の自家を維持しえた人は、存在自体が稀なのでした。
奥野氏の生家は、JR恵比寿駅から徒歩数分で到達するも現在なおその静かな住宅街にある。
氏の両親が結婚してそこに住んだ1925(大正14)年当時は、東京府下豊多摩郡渋谷町下渋谷原四番地という住居表示だったといいます。そうして、就学前の「原っぱ」遊びの記憶から、近年の住宅コンクリート変容に到るまで、自宅周辺の軌跡を定点観察してきた奥野氏の幾編かの文章は、東京の一地域変容の具体相を記録して、たぐいまれな証言となっているのです。
ところで、冒頭の文章のうち「牛啼坂」とは、江戸・東京にはよくある坂名で、港区は赤坂にも、青山にも現存する。
しかしここでいわれる牛啼坂は、一般には目切坂、別名暗闇坂として知られているもので、渋谷区と目黒区の境から目黒川の谷に下る長い坂のこと(写真)。目切坂の名は、坂上に明治10年頃まで、伊藤与右ヱ門という石臼の目切業者が住んでいたためといいます(石川悌二『江戸東京坂道事典』コンパクト版、2003年)。
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(以上は、「竪の坂・横の坂」(『地図中心』誌連載「江戸東京水際遡行」2012年8月号に掲載予定の冒頭部分)

collegio

cliff of ethics

どこぞの国の、暗愚な首相が、サッカー国際試合の最中に、核発電プラントの再稼働を言いたてた。

その再稼働を阻止するため、首相官邸付近に夕刻から続々と人が詰めかけていた。
その数、4000人以上にのぼるという。

大分遅れてだが、私も駈けつけて、若い人が多いのに驚いた。

恥ずかしいことである。
私もそれに入る団塊の世代は、ぽろぽろと数える位しかいない。

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私が撮ったブレボケ写真だが、「恥を知れ」というプラカードは、国家官僚と政治家たちに向けられただけではない、50歳以上の「枢軸世代」に向けられたことばであるとも受取らざるを得なかった。

核発電プラント(原発)とその生成物(放射性廃棄物)は、その存在自体が人類のcliff edge ないし cliff of ethics を越えているのである。

そうして、どこぞの国の暗愚なマスコミは、この抗議行動を、ほとんどが黙殺したのだ。

もうひとつの私の写真は、同8日午後7時半頃の経済産業省前の抗議テントの様子。
ここは比較的高齢の女性たちが中心になって維持されている。
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人間の、人間たる理性と倫理をみる思いがする。

当該書品切れとなって4カ月、お待たせしておりますが、先般ようやく「三訂版」の校正原本ができました。

ということは、これから印刷所で訂正して、それを校正・チェックし、それから印刷・製本ですから、出来て7月末。
「もういいよ」という声も聞こえてきそうですが、そうして、少々増刷したところで、経費上マイナスとなったらどうするのか、
という声もあるのですが、銀行から借入れをして、「三訂版」はつくることにしました。

なにせ、実際「もうすぐできます」と蕎麦屋の出前のようなことを言ってきたわけですし、「並」ではない本をつくる
版元としての意地がある。

申しわけありませんが、どうかお待ちください。

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図は、訂正原本の一部。
もちろんもっと「赤」の入ったページもあるし、そのままのページのほうも多いのですが、「地図」だけでなく「辞典」の
ページも結構訂正がある。

地域の「地盤」や「古環境」を知るには、この本が最適であることは、知る人ぞ知るなのです。

地域の図書館は、「最新版」を必ず備えてくださるよう、どうか「初版があるから結構」と言うことのないように・・・