Archive for 6月, 2009

collegio

古地図は最新地図

古地図が「最新地図」であるとは、奇矯なロジックと思われるかも知れませんが、真面目な話です。
敏い向きは、ひねった「温故知新」話かと予防線を張られるでしょうが、そうでもありません。
 結論を先に言えば、「当時の最新地図」であることが、古地図の真贋を決定する最大の要素であるということです。つまり、そうでなければ古地図の資格がないのです。
 
 私のような仕事をしていると、時々「今は地図ブームなんですか」とか、「古地図が流行だそうですね」と訊かれることがあります。
 従来の「業界」の激変、苦境を覗い知る者としては、このような質問には大変答えづらい。たしかに、書店にあふれる地図付「ナントカ散歩」や「古地図でたどるナントカ」の類は、人をして地図ブームを思わせるものがあるでしょう。けれども、すくなくとも「古地図」についていえば、その名に相応しいものを見かける機会は、大変に少ない。

 「地図」は実用に供するのが第一の目的ですから、その時点で最新の情報が盛られていることが最低条件となります。Out of dateの図は使えない。だから、例えば東京でいえば「六本木」に「防衛庁」が残っていたりすると、普通は書店の店頭から撤去される。けれども、その地図は、通常は作られた時点で最新だったはずです。つまり、たとえば「東京ミッドタウン」が以前はどんなところだったかを知りたい時には、地図の出版年記を確認し、その場所をめくればそれを確かめるにもっとも相応しい資料が出現する。このようなものを「古地図」と言うのです。古地図の定義を狭くとる人は、江戸時代以前の図を古地図としますが、新陳代謝の激しい極東島国の都市部では、数年前の地図も古地図の資格は十分にあるでしょう。いずれにしても、古きを温(たず)ねるには、その当時で最新の図が必要です。
 
 逆に「古地図の資格のない古地図」というものはどういうものかと言えば、断わりのない「こしらえ古地図」や「シンコ(新古)地図」ないし「偽装古地図」、そして「復元図」や「推定図」、「歴史地図」の類です。このようなものは枚挙に遑(いとま)がありませんので、図例は割愛します。
 一方、「当時の最新の地図」を、「古地図資料」と銘打って、図の「史料性」に依存しながら刊行される複製地図も見かけますが、言うまでもなく「複製」ですから本物ではありません。けれどもそうしたものでも、断わりなくそのまま印刷されていれば、古地図そのものと誤解されることがすくなくありません。まして和紙に印刷されていたり、時間を経たりすると一般には古地図と区別がつき難くなります。そうして、そのような出版物は、往々にして「そのまま」ではなく、文字を勝手に削除していたり、書き換えていたり、印刷色が現物とはほど遠いものであったりするのです。
 ですから、資料出版の常識として、複製図には一般書籍の奥付と同様、複製であることを示す「複製責任者、複製時期、原本所蔵者名」などの諸元を直接記載するのが最低のルールです。しかし、「複製古地図」出版の現状では、そのルールが守られているのを見かけるのは、稀でしょう。
  
 「古地図は最新地図」という言葉を念頭におきながら、手元にある地図類を見直してみましょう。
できるだけ「本物」の地図や、オリジナルな古地図の、良心的な複製を見る機会を増やしましょう。そうして養われた眼力は、身近なところに転がっている「お宝」や、その潜在候補を見つけることができるかもしれませんよ。

万治年間江戸測量図

《江戸図の始原》を完全覆刻!
万治年間江戸測量図 オンデマンド・レプリカ版
MANJI-NENKAN EDO SOKURYOZU, 1:2400 Plan of Edo, 1657
ISBN978-4-902695-13-7                                      
之潮編集部編/解説:秋岡武次郎(地図学)・桐敷真次郎(建築史)
定価924,000円(本体880,000円+税)

“究極の江戸図”がついに公刊

明暦の大火(1657年)直後、幕命により時の大目付北条安房守氏長が責任者となって実測作成された大縮尺精密原図(1:2400)。
原本は財団法人三井文庫架蔵にかかる本邦無二の資料にして、「江戸図の祖(おや)」と謳われた遠近道印の「寛文五枚図」の元となった官製図で、その貴重さおよび巨大さ(約4・20m×3・20m)故に、これまで詳細な調査・研究の及ばなかった原本を、はじめて最先端機器による高精細デジタル撮影に付した。
日本の近世史・科学史・都市史・都市計画史上、最重要資料のひとつ。

本資料はオンデマンド出版です。
ご希望により現物見本を持参いたします。ご覧になりたい向きは、小社までご連絡ください。

地盤災害

新刊

フィールド・スタディ文庫4

 梅雨入りしたのに西日本は渇水状態。それも気候変動の故か、局所的豪雨も増加。
今月の《フィールド・スタディ文庫》の新刊は『地盤災害』。
 震災は、決して手抜きや偽装建築だけの問題ではなかったのです。
 本書はかつての宅地開発の具体相をあきらかにし、現在なお足元で進行する事態に警告を発します。
「安全」「安心」が叫ばれる今日、そのもっとも基礎的な問題を指摘します。