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古地図は最新地図

古地図が「最新地図」であるとは、奇矯なロジックと思われるかも知れませんが、真面目な話です。
敏い向きは、ひねった「温故知新」話かと予防線を張られるでしょうが、そうでもありません。
 結論を先に言えば、「当時の最新地図」であることが、古地図の真贋を決定する最大の要素であるということです。つまり、そうでなければ古地図の資格がないのです。
 
 私のような仕事をしていると、時々「今は地図ブームなんですか」とか、「古地図が流行だそうですね」と訊かれることがあります。
 従来の「業界」の激変、苦境を覗い知る者としては、このような質問には大変答えづらい。たしかに、書店にあふれる地図付「ナントカ散歩」や「古地図でたどるナントカ」の類は、人をして地図ブームを思わせるものがあるでしょう。けれども、すくなくとも「古地図」についていえば、その名に相応しいものを見かける機会は、大変に少ない。

 「地図」は実用に供するのが第一の目的ですから、その時点で最新の情報が盛られていることが最低条件となります。Out of dateの図は使えない。だから、例えば東京でいえば「六本木」に「防衛庁」が残っていたりすると、普通は書店の店頭から撤去される。けれども、その地図は、通常は作られた時点で最新だったはずです。つまり、たとえば「東京ミッドタウン」が以前はどんなところだったかを知りたい時には、地図の出版年記を確認し、その場所をめくればそれを確かめるにもっとも相応しい資料が出現する。このようなものを「古地図」と言うのです。古地図の定義を狭くとる人は、江戸時代以前の図を古地図としますが、新陳代謝の激しい極東島国の都市部では、数年前の地図も古地図の資格は十分にあるでしょう。いずれにしても、古きを温(たず)ねるには、その当時で最新の図が必要です。
 
 逆に「古地図の資格のない古地図」というものはどういうものかと言えば、断わりのない「こしらえ古地図」や「シンコ(新古)地図」ないし「偽装古地図」、そして「復元図」や「推定図」、「歴史地図」の類です。このようなものは枚挙に遑(いとま)がありませんので、図例は割愛します。
 一方、「当時の最新の地図」を、「古地図資料」と銘打って、図の「史料性」に依存しながら刊行される複製地図も見かけますが、言うまでもなく「複製」ですから本物ではありません。けれどもそうしたものでも、断わりなくそのまま印刷されていれば、古地図そのものと誤解されることがすくなくありません。まして和紙に印刷されていたり、時間を経たりすると一般には古地図と区別がつき難くなります。そうして、そのような出版物は、往々にして「そのまま」ではなく、文字を勝手に削除していたり、書き換えていたり、印刷色が現物とはほど遠いものであったりするのです。
 ですから、資料出版の常識として、複製図には一般書籍の奥付と同様、複製であることを示す「複製責任者、複製時期、原本所蔵者名」などの諸元を直接記載するのが最低のルールです。しかし、「複製古地図」出版の現状では、そのルールが守られているのを見かけるのは、稀でしょう。
  
 「古地図は最新地図」という言葉を念頭におきながら、手元にある地図類を見直してみましょう。
できるだけ「本物」の地図や、オリジナルな古地図の、良心的な複製を見る機会を増やしましょう。そうして養われた眼力は、身近なところに転がっている「お宝」や、その潜在候補を見つけることができるかもしれませんよ。

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