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江戸の崖 東京の崖 その26

今年の1月24日は、幸徳秋水ほか11名刑死100年忌。
いわゆる大逆事件100年にあたります。
永井荷風父永井久一郎旧邸跡近く、旧市ヶ谷刑務所処刑場跡は、新宿区の余丁町児童遊園の一隅に、日本弁護士連合会の「刑死者慰霊塔」が建てられていて、たずね来る人にはわかる状態。
都内ではもう一箇所「故地」が残されていて、渋谷区代々木三丁目の正春寺墓地中央辺の白っぽい自然石が翌25日に処刑された管野スガの墓。
スガの墓については、田山花袋が『東京の三十年』で曖昧に触れている。つまりはっきりと個人名や事件名を書くことは、当時憚(はばか)られた。

昨今そこここの神社などをめぐって、若い人の間に「パワースポット」ブームが出現しているわけですが、大逆賊「将門首塚」が大手町にある江戸東京最大のパワースポットなら、こういう場所も「近代パワースポット」。なにせ菅野スガは現代の劇作家によって「魔女」扱いされている(福田善之『魔女伝説』三一書房, 1969 )のだから、十分に「パワー源」となる資格がある。

 [凡そ「神社」は怨魄を封ぜんがため建立され、その「パワー」は恨みを淵源とす。
 [よって、人もし「パワー」を後代に残さんと欲せば、死に臨んで存分に恨み念ずべし。

つまり、そこには一種の「時間の特異点」が露出している。
そうしてまた、崖が屹立しており、ビュービューと風が吹きつのる。
非命に斃れた異貌が顕現する。

『時の崖』というのは、安部公房が書いた拳闘小説のカウントダウン・ゴングにだけ出現するわけではない。
先の「ブラタモリ」や「新東京地形論」も、時間に伏在する非連続性という「崖」に無知な例でしょう。

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