今尾恵介さんの新刊『地図で読む戦争の時代』 -描かれた日、描かれなかった日本- (4月9日刊、白水社)は大変よい本だ。

しかし、一見してすぐに暗澹としたのは、そこに紹介されている「戦時情報統制」なみの状況が、いま、日本列島に出現していると気付いたからだ。

「地図の力」とは、一瞥すぐに概況を把握できることだ。
その「力」をもった「汚染地図」が、いま、とりわけフクシマの人々に、切実に求められているのに、国内では公表されない。
あいもかわらず、20キロ、30キロ圏の同心円地図である。

夕刊フジ、2011年3月18日掲載地図
夕刊フジ、2011年3月18日掲載地図

原発を撮影した鮮明な写真画像があるのに、それを公開しない。
そのあまりにも無残な姿は、外国のネットに掲載されている。
それは、敗戦後、天皇がマッカーサーをGHQに訪れた時に撮られた、二人が並んだ写真を思い出させる。
あの衝撃的な写真は、当時の政府が「報道禁止」したが、占領軍がそれを公開させた。
原発の鮮明な写真は、冷却系も配管がずたずたに破断していて、「小康状態」どころではない有様が明白になるから、すくなくとも日本国内では報道に載せないのだ。

3月24日無人飛行機によって撮影された、福島第一原発3号機
3月24日無人飛行機によって撮影された、福島第一原発3号機

ドイツ気象庁が日々発表している、放射能汚染地図も、日本では公の情報とはなっていない。
日本のテレビや新聞は、数字や半円(20キロ圏、30キロ圏)の図を示して、「風評被害」を再生産している。

大日本帝国陸地測量部が作成していた戦時下の地図には、「戦時改描」がなされ、また空白部の多い地図がつくられた。
けれども米軍はより精確な地図を自らつくりあげ、精密な爆撃を行っていたのである。
「戦時改描」や「空白地図」は、結局のところ「国内向け」「国民」に向けの「戦時統制」にすぎなかった。

いま、その戦時下並の情報統制が目論まれている。
おそらく、政府や東電には、「公開されない地図」「公開されない写真」がある。
つまり、秘匿されている、重大な事実、あるいはその「可能性」があるからだろう。

「記者クラブ」や「記者会見」に頼っている、あるいはそこに自己規制しているテレビや新聞はもう機能しないのだ。
人は、情報をインターネットに求めざるを得ない。
多少の希望は、「すき間」があること、人間の誠実さと理性もまたそこに見いだせることである。

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