collegio

廃熱都市の座敷牢

0013.jpg

10階建てマンションの5階にいるため、真夏に天井から熱が降り注ぐこともなく、バス通りの排気ガスが吹き込むことからも免れている。
ただし何事も禍福は糾(あざな)えるごとしで、高層建築物の中層階は大地震の時はそこだけ圧潰する可能性が大きいとは、つくばの建築研究所の実験結果でも明らかである。
そのマンションの通路側、玄関脇の北向きの小部屋は、冬には極寒スポットとなるため最近まで物置として使っていた。
使っていたというより、戸が開かなくなるまでモノを放り込んでいたのだが、本などで売れるようなものは知人の古書業者に何箱も送り付け、捨てられるモノは膨大に棄てて、ようやく落ち着ける場所をそこに確保した。
つげ義春の「退屈な部屋」(1975、下掲カット)に似た、約2メートル30センチ四方の空間である。
その廊下側の窓を木材で加工したところ、「女郎部屋」ならぬ「座敷牢」の趣(上掲photo)となった。

ところで現役の牢屋で思いを致すのは、世界的にも稀かつ悪名高い日本の被疑者拘束施設すなわち警察の「留置場(所)」である。
もちろんエアコンなどは望むべくもなく、その存在と「保釈」を忌避した長期勾留はそれだけで刑罰兼拷問・自白強要と何ら変わるところがないからである。日本の冤罪の根源には、前近代から継承する「しょっ引いて来て吐くまで敲く」留置場(所)が存在するのである。

20200819115514_00001.jpg

さて「座敷牢」のある拙宅は、69年に竣工した古マンションではあるが標高約68メートル、駅から3分、向かいに都立庭園の樹々を見下ろす、位置的には比較的快適な棲みかではある。
しかしながらいくつかの問題が浮上した。
近年1階入口をオートロックに改修して不要となった各階廊下側窓の防犯格子が取り払われため、夏期の窓の開け放しが不可能となったのである。
エアコンを滅多に使用せずもっぱら南北の通風でしのいできたから、それは困る。
ホームセンターで木材を購入、新たに内窓格子をつくり付け「座敷牢」が出現したのではあった。
しかしこの暑さである。
窓開けだけでは如何ともし難く、1800円の小型扇風機を購入して後方に冷凍ペットボトルを立て、「冷風扇」を真似て夜の睡眠時間を繋ぎ留めた。

023.jpg

ところでベランダのない古マンションは消防法違反でもあり、新たに戸別のベランダをつけてくれたのはいいけれど、エアコン室外機の置き場所設計を建物に対して90度向きにしたため、ベランダは熱のプール状態となって鉢植えなどは早晩枯れてしまう。
それ以上に問題なのは、室外機は背面から空気を吸い込み、正面から熱気を吐き出すのであるが、この場合背面側の空気取り入れ口のスペースが熱溜りの底側にあたるため、電力消費上まことに効率の悪い設置構造となっているのである。

似た状態は、地階の駐輪場にも指摘できる。
そこは商店街のエアコン室外機置場でもあるのに、隣地から侵入されないよう建材でぴっちり閉塞した結果、夏は猛烈な熱気充満地帯となってしまった。
さらに自働開閉ドアと自働ロックドアの間が、大きな二重ガラス空間となっている1階の出入口も問題である。
開口部がどこにも設けられていないため夏は熱がこもり、台風時は風圧で電動ドアの機能が麻痺し、扉が開かなくなるのである。

設計ないし施工発注者は電力に拠りかかって、熱(廃熱)と力の逃げ道つまり通風を、軽視というよりほとんど無視したのである。
千年どころか万年単位の気候変動期にあたって、熱力学に留意しない建築関係者は論外である。

東京圏は、おそらく地表上もっとも大規模に大気の廃熱ドームで覆われたエリアとなっているはずである。廃熱ドームをつくりだしているのは、もっぱら自動車等の排気ガスやエアコン等の廃熱である。近ごろ耳目にする「二層の高気圧」も加えて、ドームは「閉じた系」として現出しているのである。
熱力学の第一法則および第二法則は体験として知覚できる。
クーラーと無縁の生活保護受給高齢者が熱中症で亡くなるのは、「鉱山のカナリア」に似る。
エアコンが生存に不可欠となるのは、それだけ日常生活が宇宙船的人工環境に近づくことであり、同時に人間世界の終末時計が早まることでもある。

新型ウィルス市中感染の猛暑、エアコンなしの「座敷牢」閉居は、「私テフ獄ニ一生鉦叩(カネタタキ)」(『天軆地圖』p.77)「吾といふ檻(をり)腐(くた)るまでシヲマネキ」同、p.260)のエクササイズと自覚すればよいか。

Comments RSS

Leave a Reply