(以下、「国分寺マンションニュース」2018/07/10投稿・未掲載)

腰痛が持病のようになって、それが原因で2度も救急車のお世話になった身としては、後期高齢者以前ながら外出に杖は欠かせません。トレーニングと称して階段を2ずつ上がっていたのはずいぶん昔の話。数年前からはエレベーターとエスカレーターが頼りとなりました。

最近国分寺マンションのエレベーターホール掲示板に「地震災害時外側非常階段使用禁止」の貼紙を見かけます。ステンレスでもないかぎり鉄の外階段が腐朽するのは早いだろうとは思いますが、非常時に非常階段が使えないのは困ります。火災が発生した場合は、屋内階段は防火扉が閉められ使用できなくなりますから、非常階段を使わないわけにはいかないのです。

しかし今回の本題は非常階段ではなくて、エレベーターについてです。豪雨や洪水が話題となっている昨今ですが、まだ記憶に残る6月18日朝の大阪北部地震では、東日本大震災の1.6倍の339件のエレベーター閉じ込め事故が起きたと報道されました。そのうちの25件は7時間以上も「かご」のなかに閉じ込められたと言われます。

1958年公開ジャンヌ・モロー主演の「死刑台のエレベーター」以降、サスペンス映画でエレベーター閉じ込めを扱った映画は少なくないようです。それだけ「密室閉じ込め」の恐怖は大きいのです。

2009年には「地震時管制運転装置」導入が義務づけられましたから、一定震度以上にはエレベーターが自動的に至近の階で開扉するはずですが、その装置のない旧式エレベーターはもちろんのこと、「いざ」と言うときに停電やらコンピューターの誤作動やらは付きものですから、新築マンションのエレベーターといえども「安心」と済ませているわけにはいかないでしょう。

まして私たちが住む世界一の巨大都市圏を襲う直下地震の場合、閉じ込めエレベーターの内部から外へ連絡がつながったとしても、エレベーター会社の管理センターや消防が一般のマンションまで手が回るようになるのは、数時間後どころかまる一日以上、場合によっては何日も後になる、と考えておいたほうが無難なのです。

中央防災会議の報告でも、今後30年間に70%の確率で首都直下のM7クラスの地震が発生し、30000台のエレベーターが閉じ込めにつながる停止を起こし、最大で17000人が閉じ込められ、救出には少なくとも12時間以上を要すると推測されているのです。これは1日や2日は覚悟せよ、と読み替えていい数値です。

このため官公庁や企業の一部では、エレベーター閉じ込め対策として、「かご」の隅に三角柱のボックスを置き、飲料水、簡易トイレ、ラジオやらホイッスル等、そしてトランプまでの各種グッズを格納し、またそれを簡易椅子として使用できるようにしているところもあると言います。

エレベーター閉じ込めでもっとも怖いのは、トイレが我慢できなくなった時です。高齢者はトイレが近いし、寒ければなおさらで、子どもでも暑いさなかには水を飲んでトイレが我慢できなくなる。「かご」が満員であれば、立ちっぱなしで何時間も、あるいはそれ以上の時間をひたすら「待つ」しかありません。その「地震」はいつやってくるか、明日か、十分間後か、誰にもわからない。

というわけで、当方は「エレベーター閉じ込め」の可能性を自覚してからは、駅ビルなどではエスカレーターを使用し、マンションでは重い荷物がないかぎり、杖をつきながらも、もっぱら階段を上り下りすることにしています。そうして気づいたことは、屋内の階段が結構幅広いのはいいとして、手すりが大変使いづらいことでした。片側に1本しかなく、それもステンレス製の結構太い手すりなのです。

近年福祉施設や公共的な場で普及しはじめた階段手すりは、細く握りやすい木製のもので、しかも上下2段となっているものです。それも階段の片側だけではなく、両側に付いていて、しかも途中に「アキ」がないことが大事です。ステンレス製は、夏場はまだいいとして、とくに寒冷期には困ります。いずれにしても、時によって命綱の代わりともなる手すりは、「付いていればいい」というものではありません。

まして地震時にはエレベーターは使えず、非常階段が使えないとなれば2階以上のマンション住人全員が、屋内ひとつ階段の上り下りに集中することになるわけです。エレベーターの管制装置やかごの防災グッズ格納器については措くとしても、とりあえず階段手すり問題については、早期の対応が必要でしょう。

その一方で、とりわけ竣工以来時を経ている国分寺マンションの場合に必要なことは、エレベーター閉じ込め発生時に居住者が協力して対応できるような体制をとっておくことでしょう。つまり、消防やエレベーター会社などをあてにせず(「その時」に対応してもらえると思ったら大間違い。一斉広域災害の「消防」救出順位は①病院、②公共施設、③民間ですから、一般のマンションは「自力」準備が不可欠)、自力で閉じ込め者を救出できるよう対処訓練しておくべきでしょう。

その際に重要なのは、簡易トイレ使用訓練も併せて行うことです。簡易トイレないし携帯トイレについては、地震で水洗トイレが使えなくなった場合に備えるもので、エレベーター閉じ込めに限らず、各人の必需品です。お定まりの消防消火器訓練などよりも、こちらのほうがよほど重要であるのは論を俟たないでしょう。

以上の事柄は、すでに長期修繕委員会や理事会などでは話し合われたことかも知れませんが、既述の拙文「防災井戸」や「震災時排水問題」と併せ、一般の注意を喚起する意味で投稿させていただきました。

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