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ことば・文字・図

吉田東伍の『大日本地名辞書』は、日本近代出版文化史の金字塔のひとつ。唯一の欠点は、その場所の「地図」がついていないこと。

日本は「ことのはさきはふ」国、中華帝国は「文字でできあがった国」。
列島に住まう人々は、音節としての言葉に、それから文字に幻惑される。
白川静さんの説ではないけれど、漢字は呪符だし、漢語は演説向き。人をかりたてる力がある。
「明治維新」は漢詩で起動され、その後150年間つづく「東京時代」のあやまちを決定づけた。

漢詩だけではない、
詩的言語一般が情動を誘う幻術であることは亡くなった吉本隆明さんの例でもあきらか。
ちょっと角度を間違うと、とんでもないところに人を導く。
ことばで説明されればそれで一件落着するように思われるけれど、それは人間の頭のなかだけの話。人間は生物として、一定のひろがりをもった空間に物理的に生存している。
それはまた別の世界。

文字やことばのまやかし疑う方法のひとつに、「図にしてみる」というやりかたがある。

コメニウスの『世界図会』やディドロとダランベールの『百科全書』の基本は啓蒙主義だけれど、文字や言葉だけで片付けてしまわない開明的な世界がひろがっている。
だから、辞典、字典、事典も結構だけれど、それだけで完結したと思わない方がよい。

――ということを下敷きにして、小社の〈フィールド・スタディ文庫〉シリーズの1『川の地図辞典 江戸・東京/23区編』および5の『川の地図辞典 多摩東部編』をつくってみたのです。

『川の地図辞典 江戸・東京/23区編』 本体価格3800円 現在品切・「三訂版」準備中
『川の地図辞典 江戸・東京/23区編』 本体価格3800円 現在品切・「三訂版」準備中

明治初期と近年を対照できる「地図」を付したこの2冊は、小社のロング・ベストセラーのひとつ。しかもその「地図」は「地形図」だから、土地の履歴と高低差、そして地域環境がわかる。
「液状化」等でにわかに注目された「古地図」(正しくは旧版地形図という)が収録されていて、しかも現在地がすぐにわかる。
現在の地図や地形図では川や川跡は見つけること自体が難しい。
お買い得ですよ。

〔ここまでは、『図書新聞』辞書・事典特集、(第3059号、2012年4月21日)への寄稿エッセイ〕

とくにこういう書籍は、地域の図書館に必備。ただし「予算」の関係から、「初版」だけで済ましている場合がほとんど。
「土地」に関わる書籍の改定版が出た場合は、それを必ず備える、のは図書館の常識なのに・・・
是非「三訂版」をリクエストしてください。
5月中には出来るはずです・・・

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