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江戸の崖 東京の崖 その1

目の前は、崖である。
といっても、垂直な懸崖ではない。
都立庭園である。いわゆる国分寺崖線の斜面にできた「ハケ」の庭園である。旧三菱財閥岩崎の別荘である。と、エラそうに言ったところで別に私がエライわけではない。
ただし、私が崖っぷち男であることは確かで、常に資金に窮している極小一人出版社がいつどうなるかわからない、という意味で常に崖っぷちである。

けれども、崖の上である。
昼も夜も、眼下は殿ヶ谷戸庭園の森。その向うの崖下は立川面。府中の町と、またその先の多摩丘陵が目の先である。
晴れた日は、よみうりランドの大観覧車が肉眼でも小さく見える。
ちょっと窓から顔を出せば、70年代村上春樹夫妻がやっていたジャズ喫茶があった、茶色のビルが見える。ただし私が村上の作品に興味があるわけではない。「ハリー・ポッター」も、ナントカの巻を途中まで読んで放り出した。村上もそうである。こんなものを読もうと思った自身を恥じよ、だ。

さて、崖である。
崖とは傾斜角の絶対値ではなく、地表傾斜変化の程度、つまり相対的な概念である、というのは鈴木隆介先生の『建設技術者のための地形図読図入門』第1巻120ページの趣意。ただしそれは山地や丘陵などの自然地形での話で、掘ったり埋めたり切り取ったりの平坦地を畳みあげる現代都市にあっては、やはり傾斜角の絶対値が評定の基本となろう。よって、建物の充満している都市部においては、各都道府県の建築基準法施行条例中の崖規定、すなわち傾斜角30°以上、高さ2m以上を認定基準としてみる。けれどもこれはミクロな崖定義で、そもそも崖の幅については何の規定もない。そうして、崖は斜面の一種である。しかし自然の生成プロセスを考えた場合、斜面が崖をつくりだすのではなく、崖つまり垂直面が斜面の母体だと考えた方がよい。このことについては、おいおい触れることになる。

このあたり(小金井、国分寺)では、「hakeハケ」というのが国分寺崖線の、とくに湧水流出場所を指示する謂いであるとは、大岡昇平の小説『武蔵野夫人』冒頭で開陳され、巷間に知れ渡るようになった。方言の類であるが、他所では「hakkeハッケ」「bakkeバッケ」、「bakeバケ」とも言う。これらについては漢字で「八景」や「化」と書くこともある。「hakaハカ」や「hagaハガ」というバージョンもある。皆、地形を言い表した用語で、「崖」の意である。
これらの-ake(-akaは変形)に注目すれば、「kake欠け」が語源と思うのは自然の勢いだ。これにはまったく対蹠的な説もあって、アイヌ語のパケ(頭。突端。岬)から来たというのである。こちらは否定(マイナス)思考でなくて、肯定(プラス)というか、余剰思考である。コブである。突出である。余分なのである。けれども「欠け」に似たマイナス語源説にはもうひとつあって、それは「禿ハゲ」。禿は動詞「剥ぐ」の連用形の名詞化であるから、海波や河流の侵食作用を成因とする崖にはぴったりではある。「ha」は「端」であって、それに「ケ」という助辞がついて「ハケ」である、という説もあるらしい。
まあ、たくさんあるけれど、とにかく私(芳賀ハガ)が崖に深い関係のある人間である、ということはこれで納得していただけたことかと思う。

とにかく、崖である。

崖はどうして出来たのか。
ある日、突然出来たのか。
少しずつ、ちょっとずつ、いつの間にか崖、なのか。
カタストロフィーか、斉一作用の膨大な蓄積によるのか。

One Response to “江戸の崖 東京の崖 その1”

  1. beats by dre studioon 30 12月 2011 at 7:37:31

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