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不法な法 ―情けない国

「不法滞在中の外国人が入管施設で長期収容されている問題の解消を図る入管法改正案は9日、衆院本会議で賛成多数で可決され、衆院を通過した」(毎日新聞・ネット、20230509)

この記事はその冒頭から「不法滞在」という言葉を使ったことによって、「問題の所在」を報道する精神をすでに失っている。
日本の主要ジャーナリズムが「お上」の言葉のチェックをせず、「垂れ流し」ている見本のようなものである。

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2017年6月に来日して日本語を学んでいたスリランカの女性ウィシュマ・サンダマリさんは、2020年8月同居スリランカ男性のDVから逃げて交番に駆け込んだが、DVや仕送り問題をかかえて除籍されていたため、在留資格のない「不法滞在」者として即刻名古屋の入管(出入国在留管理庁)に収容された。

入管の収容施設は、収容者に精神的苦痛を与え、諦め絶望させ、屈服させて国外退去させるための拘禁所である。
日本の入管行政の現状は、つまるところ「非・国民」の国外退去と追放に携る、公的なヘイト、排外機関と言える。
そのため出入国管理法は、入管行政のトップすなわち施設管理者(管理局長)にほぼ無制限の権限を認め、その権限はおよそ基本的人権に顧慮するところがない。約半世紀前、法務省入国参事官は(外国人は)「煮て食おうが焼いて食おうが自由」(池上務『法的地位200の質問』1965年、p.167)と漏らした通りで、その認識と処遇は変わるところがない。

そのため2021年1月頃からウィシュマさんの体調が悪化し、翌月外部の病院での診察と点滴等の処置が必要と判断されたにもかかわらず実質放置され、3月6日に死亡した。33歳であった。
しかしその死に関して誰一人として罪責を問われることはなかった。
検察は「因果関係」を認めず、すべて不起訴相当とした。

この事件は日本の入管法と行政の非人道性を世に知らしめる結果となり、それ以前から準備されていたいわゆる入管法「改正」案、すなわち難民認定申請を却下された外国人の本国送還を容易にし、入管当局の権限を強化する出入国管理及び難民認定法改正案は、2021年5月に成立見送りとなり、翌年1月の国会でも再提出は断念された。

しかしながら「増え続ける長期収容」状態に対する解決として入管法改正案は執拗に上程され、今回は形式的な答弁が繰り替えされたのみで、この4月28日衆議院法務委員会において自民・公明、維新・国民の賛成で可決された。

この4党とその党員ならびに議員たちには、現代法治国家の政治を担う責任も資格をないと言わざるを得ない。
それは「手続き」ないし「アリバイ」としての些末な「法律」以前、人類にもっとも普遍的な「法」すなわち正義を弁えることなく、理解しようともしていないからである。
「普遍的な正義」とは、人権すなわちヒトがヒトとして生きる権利である。
そこには国家のちがいも民族の差異も存在しない。

2019年6月24日、長期収容に抗議してハンガーストライキをつづけていたナイジェリア人は入管大村収容所で餓死に至った。
長期収容に対し、仮放免などを求める入管収容者のハンストは拡大している。
それは、死を賭けた抗議である。

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日本の難民認定率はG7のなかでも極端に低い。
それは厄介を引き受けたくない本音のあらわれであり、同時に人権意識の低さのあらわれである。
世界の難民はこれから増えこそすれ、減ることはないだろう。
どの国であろうと、21世紀はそれを引き受ける覚悟なしに、まともな国家たらんとすることはできない。
しかしこの島国の法と政治のもとでは、「共生」も「おもてなし」も「絆」も、虚構ですらないのである。

難民認定を避けんとして、ひとりよがりの「非人道ヘイト政策」をつづければ、情報拡散手段の発達した今日、得られるのは侮蔑と汚名だけである。
「法」や「施設」の非人道放置は、「外国人」だけではなく「国民」にも適応されると言わなければならない。

すでに2020年8月、国連人権理事会恣意的拘禁作業部会は「日本においては難民認定申請者に対して差別的な対応をとることが常態化している」「入管収容は恣意的拘禁にあたり国際法違反である」旨の指摘を行った。
そこで求められたのは、「1.収容の目的を限定し、法律に明記すること、2.収容の期間に上限を設けること、3.収容の開始・継続について司法審査を導入すること、4.ノン・ルフールマン原則(迫害を受けるおそれがある国への追放や送還禁止)を遵守すること」で、また2021年9月21日国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会や同理事会の特別報告者らが「国際人権基準を満たしていない」ため入管法を見直すことを求めた。

しかし、今回衆院を通過した「入管法改正案」はそれらに一切対応することのない「収容長期化の問題は送還の促進で解決」を内容としている。
その端的な表れは「難民申請は2回を限度」とし、それ以降は強制送還を可能としたことである。

この5月7日、「入管法反対杉並デモ」が行われた。
東京都杉並区高円寺駅近くの小さな公園が集会場所であった。
当日は連休の最終日で日曜日であったが土砂降りの大雨。
ほとんど期待していなかったが、公園に入りきれない人々が駅前に溢れていた。
知人の、比較的若い女性が集会スピーチ者のひとりだったことにも驚いた。
隣りの阿佐ヶ谷駅前まで、青梅街道を経由する比較的短いコの字型のデモコースだった。ただ靴の中は水浸し、気温も低く、後期高齢者(に近い)老人にはちょっときつかったが、この雨の中3500人が参加(主催者発表)したと聞いていささかの希望を得たのである。
上掲の写真は、その時の様子と、私が掲げたプラカードである。

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