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ハクチョウ、トンデモ大発見

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伊豆沼のオオハクチョウ 灰色の個体は幼鳥(2019年12月26日撮影)

季節が裏腹だが、ハクチョウの話題。
次の短歌に目を通されたい。

「生ける魚(うお)生きしがままに呑みたれば
 白鳥のうつくしき咽喉(のど)うごきたり」
(真鍋恵美子―大岡信・谷川俊太郎編『声でたのしむ 美しい日本の詩』岩波文庫別冊25、2020、p.110)

最近久しぶりに新刊書店に入り、偶々手に取って購入した本にこの歌をみて驚いた。

真鍋恵美子という歌人は葛原妙子や齋藤史の陰にあって、私は寡聞にして知ることがなかった。
しかしその出会いがこの歌であったのは不幸というほかない。
編者は「生きるために別の命を殺して食べる宿命」(解説)を歌ったものとしてとりあげたようだが、これはアウトである。

昨今刊行した私の短詩集『天軆地圖』のp.241にはハクチョウを素材に次の3句を掲げた。
いずれも奥州は伊豆沼での昨冬の「写生」である。

「白鳥は逆立ち潜る脚だけ黒」
「白鳥の喉や金管吹き交はす」
「白鳥やチューバもホルンも囂(やかま)しい」

このうち最初の「脚だけ黒」とは、ハクチョウの水面に浮いている状態から逆立ちして湖底に首をつっこみ、泥中の水草(多くはマコモ)の茎や根を採食する状態を言っている。白鳥という名前とは逆に、潜水時はそこだけ異様に黒が突出するのである。
さて伊豆沼の場合、ハクチョウはおもにハス群落の地下茎(レンコン)を食す。
農家の蓮田にも時々被害が及ぶため、ハクチョウは嫌われモノらしい。

ハクチョウの採食直後の頭から首は泥に染まって実はそこも「黒」に近い灰色なのだが、とりあえず逆立ち潜水時に水面に突き出る黒い脚を「写生」した。
つまり、ハクチョウは植物食なのである。
だから生きた魚を丸呑みにするなどという「ウ」まがいのシーンを目にしたとすればトンデモ大発見、よほど酔狂なハクチョウ個体の気まぐれ動作で、一般にはそうした図柄があるとすれば空想の産である。

オオハクチョウ、コハクチョウ、コブハクチョウなどのカモ科ハクチョウ属の鳥は、すべて「水面で逆立ちになりながら上半身だけ潜水し、採食を行う」が、それは上述のように水草(抽水植物)の地下茎を食べるからである。
水草といえども「生命」である。
命は命を喰らう。
それは抗いようのない事実である。
ハクチョウも植物とはいえ、その生を糧とする。
しかし生きた魚を喰らうことはない。
仮にそうしたレアケースがあったとしても、それは「宿命」などではないのである。

注記)
命は命を喰らうのではあるが、植物の多くは他の生きている状態の命を糧とするのではない。
殖え、死骸となり、さらに咀嚼された生きものの残滓(有機)に根を張り、分解し水に溶けた栄養素(無機)を取り入れる。

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